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老いを学ぶ
2012年08月15日
老いの工学研究所提供
福祉先進国・北欧視察③「幸福感と 死に向かう準備」
老いの工学研究所
今回の北欧紀行で私が最も印象に残ったのは施設での実習でした。この施設はヨーテボリ市の「エングゴードバッケン」という高齢者住宅で169名の高齢者が入居しています。
施設はA・B・Cの3つのハウスに分かれており、A・Bハウスは認知症のケアユニット、Cハウスは老人精神病と認知症のケアユニットとなっています。B・Cハウスでは8名の高齢者と2名のスタッフで1ユニットとなっており、各ユニットはフロアの真ん中に共有のキッチン・ダイニング・リビングがあり、その周りを各入居者の部屋が取り囲んでいるような感じです。
スウェーデンの基本的な考え方は「高齢者が施設に入居している」のではなく「高齢者が自らの意思に基づき、この施設の部屋を賃借している」ということなので、入居者の方の部屋にはキッチン・バス・トイレがあり、インテリアも入居者の方がご自身の好みでコーディネートしています。
私達は、2名のグループに分かれて各ユニットで実習することになりました。私は認知症のケアユニットであるBハウスになり、かなりの緊張のため顔を強張らせながら向かいました。私が実習するユニットに行くと、2名の女性スタッフの方がにっこり私達に微笑み、挨拶をしてくれました。
が、その後何も指示がないのです。スタッフの方はダイニングテーブルに3人の高齢者の方と一緒に座り、なにかおしゃべりをしているだけで特に何かをしているわけでもありません。「これから4時間何をしたらいいのか」と困り果てていたところコバルトブルーのブラウスを着た銀髪の透き通るようなブルーの目の上品な美しい女性が私に近づいてきました。
(左側の写真がその女性。右側が高齢者住宅の「エングゴードバッケン」。)
その女性も、今まで私が出会った高齢者の方と同じようににっこり微笑んでくれました。私はチャンスとばかりにプレゼントを渡し、「日本から来ました」と拙い英語で話したところ、彼女はスウェーデン語で私に話し始めました。私はまったく彼女の話していることがわからないので「?????」という顔をしていると、その顔がおかしいらしく彼女は私の顔を撫でて微笑むのです。
私はおばあちゃん子でしたから、彼女に顔を撫でられることがまるで自分の亡くなった祖母にされているようでとても懐かしく、4時間の実習中ランチの準備でスタッフの手伝いをした以外は、ずっと彼女のそばで折り紙をしたり、話をしたり(日本語・英語・スウェーデン語がわかる方がそばにいたらこの会話がまったく成立していないことがわかったと思いますが・・・)して過ごしました。4時間の間に私は彼女に何回顔や頭を撫でられたかわかりません。
私はこの4時間、彼女が認知症あるということをまったく忘れていました。私にスウェーデン語がわかれば、彼女が認知症であった私の祖母のように昔の話や自分の心の世界で起こった出来事を現実に起こったかのように話していることがわかるので、彼女が認知症であるということを意識できたのかもしれません。実際、通訳の女性が私達の様子を見に1度だけユニットに来た時、「私はどこからきたのかしら。」と彼女が言っていたと私に教えくれました。
私は、もしこれが逆でまったく日本語ができない外国人が日本の認知症の施設で実習したらどのように感じるのかと思います。もちろん認知症は進行状況によりいろんな状態の方がいるので、一概には言えないと思いますが今回の私のように感じるのでしょうか?
私の祖母が入所していた認知症の介護施設のリビングに集まっていた方々は軽度の方も重度の方も一様に同じような雰囲気でした。色で例えるのなら「グレー」でしょうか。祖母が入所していた施設が悪いわけではなく、それどころかスタッフの方々には祖母が亡くなるまでとてもよくして頂きました。スタッフの方の入居者に対するケアのきめ細かさを比べれば、明らかに日本のスタッフの方が優れているのではないでしょうか。
私が実習したユニットには、彼女よりもっと認知症が進行している高齢者の方もいらっしゃいました。それでも女性の方はおしゃれで、スタッフにカーラーを巻いてもらって髪型を整えてもらっていたり、お化粧をしていたり明るい色のブラウスやアクセサリーを付けていたり・・・。雰囲気を色で例えるなら「パステルカラー」です。
この北欧視察の間ずっと考えていた「なぜこんなにも高齢者が楽しく過ごしているように私には見えるのか?」という疑問。これは、老後と介護というほんの一面しか目にしていない私のあくまで個人的な感想ですが、この違いは「死に向かう準備をしている、あるいはさせられている」という意識と「最後まで自分の選択で自分の人生を楽しむ」という意識の違いなのかもしれないと考えさせらせた実習でした。
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