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老いを学ぶ

2016年05月02日

老いの工学研究所提供

メディアによって作られた「高齢者像」への、強い違和感。

老いの工学研究所

熊本地震では、メディアの報道姿勢や報道内容に対する批判が多くあった。記者やカメラマンが大挙して押し寄せて避難所の人たちの邪魔になる、報道ヘリの音が救出活動を妨げる、大変な状況にある人への配慮に欠けたインタビューをする、ガソリンスタンドに並ぶ列への割り込みのほか、倒壊しそうな家の前でカメラが待ち構えるといったこともあったようだ。支援物資を送るとか、ボランティア・寄付など何とか役に立ちたいと考える人への情報提供が乏しく、伝えるべき内容がズレているという指摘もあった。

こうなる理由は、誰にでも分かりやすい。インパクトのある映像が欲しい、被災者の困難がリアルに伝わる声やエピソードが欲しいからで、目的が視聴率を稼ぐ、販売部数を伸ばすことにあるからだ。救出・救援・支援を目的にしていたら、もちろんこうはならない。問題は、今回のような緊急時においても公共性より株式会社として収益性を優先してしまっていることだが、行き過ぎると、メディアにとって災害の規模は大きければ大きいほどよく、被災者は可哀想であればあるほど良い(ネタとしてオイシイ)ということになりかねない。実際に、今回の報道を見ていると被災者は被災者らしくしてほしい、元気で活き活きした被災者でなく、どこかにもっと悲惨な被災者はいないものか・・・といった視点を感じてしまう。

高齢者についても、同じことだ。メディア自身が勝手に描いた「困難を抱える可哀想な高齢者像」があり、それに相応しい人を見つけ出しては取り上げる。重度の要介護老人や生活保護を受ける高齢者らを頻繁に取り上げて、悲惨だ、可哀想だ、大変な問題だと結論づける。ニュースを受け取る側もそういう人を見たい(自分の優位なポジションを確認したい)からか、可哀想であるほうが数字につながる。高齢者の中には、高齢者は悲惨で可哀想だという報道がなされ、弱い者扱いされるほうが得だと考える人もいるかもしれず、そういう人たちはメディアが描く「困難を抱える可哀想な高齢者像」は有難いことだろう。メディアも株式会社として、得意客の期待に応えざるを得ない。高齢者や高齢社会に対するネガティブなイメージは、このような報道によるものと言ってよい。

確かに困難に直面する高齢者はいるし、問題提起としては必要だ。しかし、多くの高齢者の実態とは大きく乖離しており、ミスリードが過ぎる。例えば、平成27年版高齢社会白書では、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と「家計にゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」を合計した割合は76.1%に上り、「家計が苦しく、非常に心配である」は6.5%に過ぎなかった。75歳以上で要介護認定を受けているのは23%だが、うち要介護3以上は4割程度だから、身体的に自立生活が難しくなっている人は後期高齢者全体の1割もいないことになる。幸福度は平均6.6点(10点満点)で、6点以上をつけた人が約6割、5点以上をつけた人では約9割となっており、高齢者はおおむね幸福なのである。

本来は、このような実態を正確に伝えるのが報道の責務であり、実態に即した世論形成がなされることで効果的な政策も選択されやすくなる。ところが、高齢者白書などが発表されても前述のような部分は無視され、大変だ、可哀想だという箇所だけに焦点が当たったニュースになる。自分たちの決めた高齢者像と矛盾する内容は避けたいのだろうが、公共性を標榜する報道機関の姿勢として疑問が残るところだ。悪いことに、大手メディアが描く高齢者像に便乗する輩も増えてきた。「下流老人」がその典型で、高齢期に多くの人が経済的逼迫に陥ると煽り、金融機関や士業などが「下流老人になる人の特徴はこれだ!」などと、根拠の薄いチェックリストを作ったりしてその備えを商売にし始めている。受け手として報道内容を鵜呑みにせず、的確に読み解く力を身につけるのはもちろん重要なのだが、メディアにも、高齢者の実像を正確に伝えようとする姿勢へ転換を求めたいものである。

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