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老いを学ぶ

2020年01月19日

老いの工学研究所提供

「70歳定年制」は、“働き方”をどう変えるのか?

老いの工学研究所

70歳までの就業機会確保の努力義務を企業に課す「高年齢者雇用安定法」改正案が、1月20日開会の通常国会に提出されます。成立すると、早ければ2021年4月から実施される見通しですが、同法は若い世代の給与や働き方にまで影響を及ぼす可能性があります。

 2013年に「65歳定年制」が義務付けられたときは、大半の企業で「希望者を65歳まで継続して雇用する(一方で、給与は大きく減る)」継続雇用制度を導入するだけの対応となったので、その年齢に該当しない人たちにとってはほとんど影響がありませんでした。しかし、今回は違います。

定期昇給がなくなる可能性も

前回と異なるのは、法改正によって2020年4月から、正社員と、いわゆる非正規労働者(有期雇用労働者、パートタイマー、派遣労働者など)との不合理な待遇格差の解消(同一労働同一賃金の実現)が求められるようになることです。

 これまで企業は、同じような仕事をしているのに、60歳を超えたら有期雇用契約に切り替えて給与を半分近くまで下げる、といった措置を取ってきました(「継続雇用」の実態)が、このようなやり方は難しくなります。簡単にいえば、すぐにではないものの、企業は「同じような仕事なら、給与水準を下げずに70歳まで雇用しなければならなくなる」のです。

 企業がこれを実現するには、大きな人事制度改革が不可欠です。まず思い付くのは、給与カーブを寝かせること。60歳を超えても給与水準を維持するためには、今よりもなだらかな上昇カーブにせざるを得ません。具体的には、「定期昇給」「昇進・昇格時の昇給」の額を減らしたり、なくしたりすることが考えられます。若い人にとって、給与が上がりにくくなる制度変更です。

 とはいえ、全員の給与が上がりにくい制度では、優れた人材が確保できません。そのため、評価が良ければ今の制度よりも給与が高くなるなど、評価によって大きな差がつくようにする必要がありますし、これによって年齢や年次による横並び処遇も一層崩れていくはずです。

 給与カーブを変更しないなら、年齢ではない合理的な理由をもって、60歳を超えた人の給与を下げるようにしなければなりません。これまでと今後の「職務の違い」を具体的に示す必要があります。つまり、「職務の明確化」です。

 これは、日本特有の「職能給」(勤続年数や階層の横並びで処遇がおおむね決まる“メンバーシップ型”)ではない、欧米型の「職務給」(仕事内容や職責、能力によって個別に処遇を決める“ジョブ型”)の一部導入といえます。当初は60歳を超えた人たちにだけ、職務内容とそれに応じた給与が個別に提示されます。

 しかし、そのうち、「職務給」の方が評価基準や給与制度に縛られにくく、個別の能力や望む働き方などに対応可能な柔軟性があり、仕組みとして合理的で双方に納得性が高いと分かれば、だんだんと若い世代にも広がっていく可能性はあるでしょう。

「キャリアは自分で考えて決める」時代に

定年制を廃止する企業も増えると予想されます。このまま、年金の受給開始年齢の引き上げに合わせて、定年の年齢をずるずると引き上げさせられるのであれば、もういっそのこと、辞める時期は自分で決めてもらおうと考える企業も多いと思うからです。具体的には、定年が廃止され、早期退職制度が拡充されるといった制度の変更です。

 そもそも、欧米の多くの国では「年齢と職業能力には関係がない」という原則があり、年齢を理由に退職させる定年退職制度を年齢差別として、違法としています。国が企業の努力義務として、「定年の延長」よりも「定年制の廃止」を上位に挙げているのは、このような国際的背景があるからでしょう。

 会社が定めた制度やキャリアパス、研修などに頼らず、自分のキャリアは辞める時期や転進先も含めて自分で考え、自分で決める――。「70歳定年」は、このような姿勢で職業人生を歩まなければならない時代の到来を予感させます。

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