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老いを学ぶ
2013年05月31日
「歯周病と、誤嚥性肺炎・骨粗鬆症・関節炎などの関係」~お口の健康(7)
歯科医師 小倉才子
前回に引き続き歯周病と全身の関係についてのお話です。さまざまな歯周病の全身への関与がわかってきました。歯科は医科と別になっておりますが、身体はひとつですから、お口の中の状態は全身の状態と密接に関係があり、全身に影響を及ぼしています。
(誤嚥性肺炎)
誤嚥性肺炎とは、食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまうことで発症する肺炎です。肺や気管は、咳をすることで異物が入らないように守ることができます。しかし、高齢になるとこれらの機能が衰えるため、食べ物などと一緒にお口の中の細菌を飲み込み、その際むせたりすると細菌が気管から肺の中へ入ることがあります。
免疫力の衰えた高齢者では誤嚥性肺炎を発症してしまいます。脳血管障害の見られる高齢者、認知症、脳血管障害、手術後など、食物の飲み込みを上手く行えない人は、特に注意が必要です。
誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは、歯周病菌であると言われており、誤嚥性 肺炎の予防には歯周病のコントロールが重要になります。
(骨粗鬆症)
骨粗鬆症は、全身の骨強度が低下し、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気で
日本では推定約1.000万人以上いると言われています。そして、その約90%が女性です。
骨粗鬆症の中でも閉経後骨粗鬆症は、閉経による卵巣機能の低下により、骨代謝にかかわるホルモンのエストロゲン分泌の低下により発症します。
閉経後骨粗鬆症の患者さんにおいて、歯周病が進行しやすい原因として最も重要と考えられているのが、エストロゲンの欠乏です。
エストロゲンの分泌が少なくなると、全身の骨がもろくなるとともに、歯を支える歯槽骨ももろくなります。また、歯周ポケット内では、炎症を引き起こす物質が作られ、歯周炎の進行が加速されると考えられています。
多くの研究で、骨粗鬆症と歯の喪失とは関連性があると報告されています。
したがって、閉経後の女性は、たとえ歯周炎がなくても、エストロゲンの減少により、歯周病にかかりやすく、広がりやすい状態にあると言えます。
また、骨粗鬆症の薬としてよく用いられるビスフォスフォネート製剤(BP系薬剤)というのがあり、これを服用している方が抜歯などをした場合、周囲の骨が壊死するなどのトラブルが報告されています。歯周病でぐらぐらしているから自分で抜く、などということは絶対に行わないようにしてくださいね。
(関節炎・腎炎)
関節炎や糸球体腎炎が発症する原因のひとつとして、ウィルスや細菌の感染があります。
関節炎や糸球体腎炎の原因となる黄色ブドウ球菌や連鎖球菌の多くは、歯周病原性細菌など口腔内に多く存在します。
これらのお口の中の細菌が血液中に入り込んだり、歯周炎によって作り出された炎症物質が血液に入り込むことで、関節炎や糸球体腎炎が発症することがあります。
(メタボリックシンドローム)
詳しいメカニズムは解明されていませんが、歯周病の病巣から放出されるLPS(歯周病菌由来の毒素)やTNFαは脂肪組織や肝臓のインスリン抵抗性を増加させ、血糖値を上昇させます。
また、重度歯周病患者では血中CRP値が上昇し、動脈硬化や心筋梗塞発症のリスク亢進と密接に関与すると考えられています。
さらには、この慢性炎症が個体の老化を促進するという論文も出てきました。
このように歯周病とメタボリックシンドロームの関連性が注目されています。
(低体重児)
妊娠している女性が歯周病に罹患している場合、低体重児および早産の危険度が
高くなることが指摘されています。
これは口の中の歯周病細菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するのではないかといわれています。 その危険率は実に7倍にものぼるといわれ、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字なのです。
歯周病は治療可能なだけでなく、予防も十分可能な疾患です。
いずれも歯医者さんでの口腔ケアで予防が可能になりますので、かかりつけの歯科医院でのクリーニングをお勧め致します。
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