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老いを学ぶ
2019年05月09日
「老人ホーム」と「サ高住」は、もう要らない。
田中 利和
現在、我が国は、医療費および介護保険給付費を抑制するために、健康寿命の延伸に力を入れています。健康寿命とは「日常生活に制限の無い期間の平均」ですが、現状、男性が72.1年、女性74.8年となっています。
ほとんど知られていませんが、国は、健康寿命とは別に「日常生活動作が自立している期間の平均」を発表しています。これは「日常生活に制限の無い期間の平均」を補完するための指標で、要介護認定1までが含まれます。(要支援や要介護1は、自立しているとみなしているわけです。)この指標では、男性79.4年、女性83.8年となり、いわゆる健康寿命より7~9年伸びます。
医療費、介護保険給付費の抑制は国の喫緊の課題です。そして既に、要支援1および2の認定者については国の介護保険制度から除外され、市町村の管轄事業に移管されており、利用できるサービスも制限されています。この流れで、2018年の制度改定では、要介護1および2の認定者についても介護保険制度から除外する動きがありましたが見送られました。しかし、2021年に行われる制度改定では、この議論が復活することが容易に想定できます。そして、上記の補完的指標の考え方が採用され、少なくとも要介護1の認定者が介護保険制度から除外されることは間違いないと私は考えています。
そうなると、必然的に要介護1の認定者の介護保険給付費が抑制される事となり、有料老人ホームとサ高住の経営には、大きなマイナスの影響を与えることとなるでしょう。
●有料老人ホームと、サ高住の需給バランスは既に崩れている
私は、福祉関係施設の需給バランスは、特に有料老人ホームとサ高住については完全に崩れていると考えています。
平成29年4月末時点の要介護認定者(要支援含む)の総数は、約633万人。そのうち、要介護2以上の認定者は約331万人となっています。
一方、施設側の受け入れ可能人数は次のとおりです。
○特別養護老人ホーム :約58万人
○有料老人ホーム :約46万人
○サービス付き高齢者住宅:約21万人
○グループホーム :約19万人
○老人保健施設 :約36万人
○介護療養型医療施設 :約6万人
合わせて約186万人となっており、要介護2以上の認定者に対する比率は56%に上っています。(軽費、養護老人ホームは原則健常者向けの為、除外)
低所得者に対応できる特別養護老人ホームや、今後益々需要が高まると予想される認知症対応のグループホーム、医療系の施設である老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院などについては今後も一定の需要があるでしょう。しかし、一般的な有料老人ホームとサ高住については、既に需給バランスが崩れていると判断せざるを得ません。
なぜなら、これらの施設の利用料は15万円(/月・人)以上が一般的であり、夫婦2人で入所すると30万円/月の費用が必要となり、これだけの費用負担が可能な高齢者が半数近くも存在するとは考えにくいからです。さらに、要介護1の認定者が国の介護保険制度から外れるとすれば、民間事業である有料老人ホームやサ高住の運営は死活問題です。また、事業者は要介護2以上の認定者以外は事業収益上受け入れる事が困難になるでしょう。
実際、有料老人ホームとサ高住に入所を希望する方が、受け入れ施設が無くて困るという話は聞きません。特に、住宅型有料老人ホームとサ高住については訪問介護事業所が外部サービス利用となっていますが、行政指導として本来決められている介護保険利用限度額が抑制されているのが現状です。
ある大手介護施設運営事業の経営者は、訪問介護事業は収益が見込めないので、高額な家賃収入が見込める地域しかサ高住の開設はしないと断言しています。
政府は、サ高住を60万室まで作るとして補助金の交付を継続していますが、既に入居率が低迷して倒産する施設が続出している現状を踏まえれば、政策の転換をすべき時期にきているのではないかと思います。
●今後のあるべき姿
皆さんは、要介護認定者(要支援含む)が高齢者全体の19%に満たない事をご存知でしょうか。今必要なのは、要介護認定者に対する対応よりも、自宅で不安を抱えながら生活している8割を超える圧倒的多数の「健常高齢者」がいかに安心して生活でき、なおかつ健康寿命を延伸できる住まい対策でしょう。
政府は、高齢者が現在生活している地域で生活が継続できることを目的として、地域包括ケアシステムの構築を目指していますが、実際の問題として戸建住宅で高齢者が生活の継続をすることについては、特に単身高齢者が高齢者の半数を占める状況においては、様々な問題や困難であります。
高齢者の色々な不安を解決する為には、「集住」が一つの解決策となるでしょう。そのための以下の3点が、ポイントとなります。
まず、施設の重点は、特別養護老人ホーム、介護医療院、介護療養型医療施設などの医療関係施設、認知症対応のグループホーム等に特化し、重点的な開設支援を行うこと。
次に、サ高住は、現在のような有料老人ホームと実態が変わらないものではなく、安否確認、生活相談を付加して高齢者の居住を受け入れる賃貸住宅の形に戻すこと。
三点目は、賃貸だけでなく、利便施設を備え、コミュニティーが形成され、高齢者の健康寿命の延伸に寄与する「集住住居」について補助金などを交付すること。
いずれにしても、有料老人ホームやサ高住の今後の運営状況は益々厳しくなる事が想定され、入居者の生活継続の権利確保も含めて注視する必要があります。
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