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老いを学ぶ

2020年09月24日

老いの工学研究所提供

自分の元気さで、周りを元気づける ~「オトン・オカンチアリーダーズ」に学ぶ。

老いの工学研究所

(Yahooニュース、オトナンサー等に掲載されたコラムを転載)

「最高齢79歳のシニア世代の男女40人が各所でチアダンスを披露している」。そう聞いて、その様子がすぐにイメージできる人はきっと少ないでしょう。その名も「大阪オトン・オカンチアリーダーズ」。主宰・指導しているのは、関西圏で9カ所のチアダンススクールを展開する企業「JUMPS」(大阪市中央区)の石原由美子さんです。

 石原さんはリクルートに在籍時、アメリカンフットボールチーム「ファイニーズ」(現・エレコム神戸ファイニーズ)のチアリーダーとして活躍。2005年に29歳で独立し、「自分の元気さで、周りを元気づける」というチアの精神を広く知ってほしいと、JUMPSを設立しました。

 健康長寿の実現に向かって、高齢者の運動や交流の重要性が注目されている中、元気なシニアが集まって活動している「大阪オトン・オカンチアリーダーズ」について、石原さんに伺いました。

人を元気づけることが「楽しい」

シニア世代を対象にチアダンスの指導をしようと思った理由について、石原さんは「多くの人は、チアといえば『女性』『若さ』を連想しますよね。私はもともと、そんな限定的な印象を持たれるのが好きではなかったんです。『自分の元気さで、周りを元気づける』というチアの精神。これを広めることを目的としていたので、会社設立当初から、老若男女はもちろん、障害を持つ人にもやってほしいと思っていました。だから、私の中ではシニア世代に向けたチアダンスの指導は最初から考えていたことだったんです」と話します。

「大阪オトン・オカンチアリーダーズ」のメンバーは40人。平均年齢は65歳くらいで、50代の人もいますが最高齢は79歳。2割が男性で、男性はズボンがユニホームで、ミニスカート姿ではないそうです。

 メンバーがどんな思いで取り組んでいるか尋ねると、石原さんはこう語ります。

「入ってこられるきっかけは人それぞれですが、やっていくうちに『人を喜ばせる、人を元気づけることが楽しい』とおっしゃる人が多いですね。今は私ではなくて、メンバーが自分たちで老人ホームや地元の敬老会に働き掛けるなどして、チアダンスを披露する機会をつくっています。

それは多分、『チアダンスを披露することによって誰かを元気にしている』という実感があって、チアダンスで少しでも世の中に貢献したいという気持ちになっているからだと思います。社会とつながる機会にもなっていますね」

 筆者も少し体験しましたが、肉体的には少しきつく感じました。シニア世代にとって大丈夫なのか気になりましたが、石原さんは「皆さん、うまくなりたいという向上心があるし、すごく頑張っておられるので、私としてはそれが無理につながらないよう気に掛けています」と配慮を示した上で、あるエピソードを明かしてくれました。

「以前、レッスンが終わってから、『先生! 今、私、肋骨(ろっこつ)が折れてるんやけど』って笑顔で言う人がいまして、もう驚きを通り越して笑ってしまいました…。そういうときは家で休んでいてくださいよって。加齢に伴って体力には個人差が出てきますし、『ワン・ツー・スリー』といったカウントの声が聞き取りにくくなることもあります。チアダンスでは動きをそろえることが大事ですから、いろいろと工夫しなければと考えています」

初心者ばかりなので入りやすい

メンバーがそこまで頑張る理由について、石原さんは「チアダンスは『チームでやる』からでしょうね」と強調します。「自分はチームの一員、だから、自分だけサボるわけにはいかないという気持ちになるんだと思います。そこがカルチャースクールで習うダンスとの違いです。“お客さま”として習っているのと、“チームの一員”として継続的に取り組むのでは、意欲や姿勢は当然、違ってきますよね」

 それくらい、チームとしての意識が強いということのようです。

「今、4チームに分かれていますが、それぞれのリーダーがうまく皆の意向をまとめていて、自主練習をしたり、うまくいかない人がいたら励ましたりと、組織としてしっかり機能するようになっています。イベントなどへ露出が増えるにつれて、意識も変わってきました」

 皆さん、意欲的なようですが、60代で初めてチアダンスをするのは心理的なハードルがかなり高いのでは?と思い、最後に石原さんに聞くと、あっさり否定されました。

「チアダンスの経験者はほとんどいないので、皆が初心者で横一線。メンバーに聞いてみると、そこがいいみたいです。他の趣味だと上級者がたくさんいて、『自分だけ初心者』の状況になりがちです。だから、ちょっと入っていきにくい。でも、チアダンスだと初心者ばかりなので、そういう壁のようなものがないということです。

ある人が『ここでは、性別も年齢も背景も違う、普通なら出会わないいろんな人たちと笑いながら取り組める。そういう場所にいられるのが、幸せなの』と言ってくれました。本当にうれしいことです」

「誰かのために」で頑張れる

石原さんの口から何度も出た「自分の元気さで、周りを元気づける」という“チアスピリット”。高齢者には運動と交流が重要とされますが、「運動しよう」「交流しよう」という単なる心掛けと、「自分の元気で周りを元気にしよう」という精神や目標があるのとでは、取り組む姿勢に大きな差が出るはずです。

 また、「周りを元気づける」チアスピリットは高齢期に高まるとされる“誰かのために”という「自己超越欲求」とマッチしていますから、高齢者に適した活動ともいえるでしょう。

 筆者もほんの少しだけ、一緒に体験しましたが、明るく元気な人たちばかり。前向きで笑顔あふれる空気の中で、すぐに打ち解けることができ、心身ともに元気づけられました。石原さんの言う通り、チアスピリットは女性や若者だけでなく、高齢者にとっても重要な考え方だと感じさせられました。

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