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老いを学ぶ
2020年05月06日
老いの工学研究所提供
高齢の親との対話が、極めて大事な理由 ~「有終写真」に学ぶ。
老いの工学研究所
高齢者が自分の表情や姿を撮影し、その写真に「大切な人に贈りたいメッセージ」を入れる「有終写真」という活動を行う女性がいます。大阪のフォトスタジオ「soramark」の代表でフォトグラファーの相葉幸子さんです。
親の「姿」と「言葉」を残す
彼女はもともと、関西でのマタニティーフォト撮影の草分け的存在です。後に「家族の物語」をテーマに、妊娠中の写真や、誕生した赤ちゃんと一緒に撮った写真、子どもの成長とともに定期的に家族で撮る写真など、その時々のメッセージを入れた写真を残し続けていくサービスを提供。
さらに、5年ほど前から、高齢者を対象とした「有終写真」を始めたそうです。有終写真には、人生の「有終の美」へ向かっていく人の姿を、写真と言葉で残していくという意味が込められています。
相葉さんは撮影する相手をリラックスさせ、人となりが存分に引き出せるよう、さまざまな質問を投げ掛け、傾聴しながら撮影していくスタイルをとりますが、その様子を傍らで見ている子どもたちが、「親の話にいつも驚いている」といいます。子どもとしては、親のことを十分に知っているつもりだったのに、「そんなことを考えていたのか」「そんなことがあったのか」という意外な話が飛び出すからです。
1カ月前に奥さまを亡くした、80代男性の撮影時のこと。相葉さんが「どんな奥さまだったのですか?」と問うと、「厳しい嫁だったなー」から始まって、奥さまに対して我慢をしてきた思い出話がいくつか語られました。
一緒に来ていた息子さん夫婦が、全く知らなかった話に驚く一方で、お孫さんが「おじいちゃんは優しいけど、おばあちゃんは怖かった」と祖父に同調するなど、撮影中は3世代の会話で大盛り上がり。
最後に、写真に入れる「大切な人へのメッセージ」を尋ねると、「あの世にも届くかなあ」との言葉に「きっと届くよ」と一同しみじみとうなずき、考えに考えた末に「後はヨロシク」の一言だけで、それを見た家族も相葉さんも泣き笑いとなったそうです。
息子さん夫婦の泣き笑いはきっと、親の人生や今の心境に深く触れることができた感激からだったのだろうと想像します。
「知らなかった」という後悔を残さない
私自身もそうでしたが、親を亡くしたとき、「実は親のことをあまり知らなかった」「もっと親と話をしておけばよかった」と後悔した人は少なくないでしょう。
進学や就職、結婚などで家を出て以降は、親と会話をする機会が減り、話をしても現況を報告し合うくらいのもので、大抵の人は親の人生のストーリーや考え方、価値観、心境といったことは知らないまま、互いに年を重ねてしまいます。
親子の会話が失われると、「家族の物語」が喪失しかねません。「自分」への無理解、すなわち「自己を理解する根拠」を失うことにもつながります。とはいえ、改まって親の話を聞くのも気恥ずかしい、気が引けるという心理も(特に男性には)あるでしょう。「自分史」のようなものを、親が書き残してくれるわけでもありません。
有終写真という機会は、写真撮影という場や、第三者による上手な問い掛け(質問や傾聴の姿勢・スキル)によって親子の深い対話を発生させており、高齢の親に対する子の理解不足を解決するためのヒントを与えてくれます。
高齢者の感性、境地に学ぶ
相葉さんは、高齢者が有終写真に入れたメッセージの中に、忘れられない言葉がいくつもあるといいます。ある高齢女性が娘さんとお孫さんを連れて3人で撮影に来られた際、幼い孫娘を抱き寄せながら、こうおっしゃったそうです。
「孫ができて分かったことがあるの。子どもは『愛されるために生まれてくる』のではなくて、『私たちに、愛するということを教えるために生まれてくる』ということ」
このような言葉は高齢者ならではのもので、若い世代ではなかなか出てきません。
さまざまな人生経験や学びの中で身に付けてきた知恵や感性、時代や社会の移り変わりを見てきた人ならではの洞察力、身体的な衰えや死を意識するようになった人の心持ち、境地――これらからにじみ出る言葉には、次世代にとって大いに学べるものがあります。
自分の親を含め、高齢者と対話する機会をどうつくるか。そこでどのような問い掛けをし、どんな態度でそれを聴くか。有終写真を参考に、次世代はもっと考えてもいいでしょう。そして、そのような機会を通じ、高齢者自身にも意義とやりがいを大いに感じてもらえるはずです。
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