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中楽坊の現場から
2019年12月13日
座談会「北欧の高齢者は、なぜ幸福そうなのか」
ハイネスコーポレーションの社員4名
6月9日~17日の9日間、ハイネスコーポレーションの河野靖司、三浦守、大島伊佐子、吉岡のり子の4名が、スウェーデンとデンマークの高齢者福祉について視察を行いました。
視察の内容、そこで感じたことなどを語っていただきました。(聞き手・川口雅裕)
参加者は、どんな人たち?
(吉岡)
私たち以外の7名の参加者は、老人介護施設やその関連の仕事をしている人たちでした。
だから、その人たちの関心は「介護に関する法や制度」「介護の仕方」「要介護状態の人たちとの接し方」といったところにありました。
私たちの関心は、高齢期の幸福感、住まいや環境、高齢者福祉に関する思想や基本方針といった、高齢期の暮らし方に関わる全般にあったので、そのあたりは、他の参加者とはぜんぜん違いましたね。
福祉先進国と言われる両国について、感じたことは?
(大島)
公助が、非常に充実している。高負担高福祉ですから、今までしっかり負担してきたわけなので、老後は行政が面倒をみるのが当然という認識が浸透しています。日本では、「親の面倒は家族がみるもの」という発想をしますが、向こうでは面倒をみるのは家族の役割ではないわけです。行政あるいは社会で面倒をみる。
もちろん、家族で面倒をみたいという人もいますが、そういう場合にも、補助金のようなサポートがあります。デンマークは在宅介護が基本方針ですから、自宅を介護用などにリフォームする際にも全額補助が出ます。
(河野)
公助がしっかりしているから、老後不安が小さいんでしょうね。日本では「老後2千万円問題」が話題になりましたけど、ああいうことは起こらない。
日本の高齢者には、長生きしたら蓄えが尽きてしまうかも・・という不安があって、だから長寿は「リスク」と捉えられる向きもありますが、それがない。
だから、高齢期をどう生きるか、どう楽しむかという、前向きな考え方ができるんじゃないですかね。
(吉岡)
「介護施設」は主として認知症の人を対象としていて、身体的な介護が必要な人は「在宅」というすみ分けのようなものがあります。デンマークは介護施設の新設は実質禁止されていて、在宅でその人の状況・必要に応じてサポートするという体制ができています。
一番、注力している課題は、認知症高齢者を減らすということのようです。一人暮らし高齢者が認知症になる確率が高まるということで、一人暮らし高齢者の情報が共有され、孤独にならないよう、声をかけたり、外に連れ出したりなどの取り組みが、仕組みとして運用されています。
ミーティング・ポイントと呼ばれるものが、人口1万数千人あたり1か所設置されて、高齢者だけでなく様々な人が集まるようになっていて、そこに連れ出すような働きかけをするそうです。
(三浦)
病院や施設なども公が設置しているということで(一部の運営には民間も入っていますが)、根本的な違いを実感しました。同じシステムを日本に持ち込むのは難しいのですが、そこにある要素はヒントになりました。
例えば、ミーティングポイントの考え方です。
街の中に人が集まる場所を設けていますが、その場所をマンションの共用部に設けることで同じような効果を期待できると思いますし、宝塚中山 中楽坊のラウンジなんかは、まさにミーティングポイントですね。こういった場所や機会を共用部のハードであったり、サークル活動やイベントなどに応用して考えてみることが重要だと感じました。
(大島)
「在宅」もそうですし、ミーティング・ポイントという開かれた場所を利用するということもそうですけど、日本のように「施設に閉じ込めて、施設側の意向で介護をする」のではなく、オープンですし、何より本人の意思が尊重されますね。
ノーマライゼーション(※注:障害者や高齢者が、ほかの人々と等しく生きる社会・福祉環境の整備,実現を目指す考え方)が、浸透していますね。だから、自分で決めること、本人がどう考えるかを周囲がとても大切にする。こちらが勝手に想像して、決めつけて、ああしたほうがいい、これはやめたほうがいいといった形でサポートすることはしません。この点、うちのマスターズマンションも同じ思想ですね。
施設を見ての感想は?
(吉岡)
デンマークは明るい。スウェーデンはなんとなく暗い印象。(笑)
(大島)
スウェーデンは、対応もちょっと硬いというか、お役所的な感じがしましたね。建物などのハードは質素というか簡素、シンプル。
(吉岡)
でも、音楽や絵などの飾りつけは充実してました。
(河野)
音楽や絵と聞いで思ったのは、色々な仕掛けを通して、住んでいる人たちの「五感を刺激している」こと。五感に働きかけようという意図を感じます。
カラフルな絵があるし、庭とか草花の色にも多分、かなりこだわりがあると思う。
色だけではなくて、光とか、風とか、においとか、草花に触れるとか・・・。鳥も来る。
日本の介護施設のように「閉じられた空間」ではなくて、外の空気が感じられるわけです。
(大島)
確かに、開かれた感じはありますね。オープン。移動しやすさを重視していると思います。危ないから歩かないとか、オープンだと防犯面で問題があるとか、日本はそういう発想になりがちですが、発想が真逆。
(吉岡)
「リラグゼーションの部屋」というのも、印象的です。
ウォーターベッドがあって、音楽が流れていて、照明なども工夫されていて。そこに入ってリラックスすることで、気持ちを静めたり、抑うつに近い状態から戻ってくることができる。
五感を刺激する一方で、五感を休めるみたいな感じでしょうか。
(河野)
「五感の刺激」と、もう一つは「回帰」かな。
皆、自分が昔から馴染んだ家具や思い出の品々を持ってきて、今までの暮らしと同じような環境に身を置いて生活をしている。
亡くなった旦那さんが、馬を飼っていたという老婦人がいたんです。施設の中に、馬の絵が描いてある場所があるんですね。その人は、その馬の絵をじっと見て、そして落ち着いてまた部屋に戻っていくんです。
毎日です。
多分、馬の絵を見て、昔の自分や昔の夫婦の生活に心を回帰させているんだと思うんですよ。思い出の中に生きて、そこに自分を見出している。
(大島)
古い家具が廊下に置いてあるのも、インテリアというよりは、「回帰」と似たような意味があると思いますね。日本だと、つまづいて危ないといった理由で置かないという判断になるケースが多いと思うんですけど・・・。
あれを見て懐かしいとか、昔を思い出すということもあると思いますね。
(河野)
「五感」と「回帰」の合わせ技というか、両方に効果的なのが、「オーガニック村」だと思います。自然の中で、昔の生活ができる施設。
(大島)
今のような便利な家電製品みたいなものはなくて、昔の不便な生活をしないといけない。綺麗に整備された庭やグラウンドではなくって、ある意味、放ったらかされたような自然の中で生活する。動物も飼われている。
(吉岡)
民間の団体が運営している施設で、高齢者向けの場所ではなくて、誰でも利用できるんですが、そこに、高齢者を連れていくんですね。
昔の暮らしへの回帰と、自然の中にいることによる五感の刺激、の両方があるということです。
(三浦)
どの施設も周囲に緑が近く、自然に触れ合うことのできる環境であること、小さい頃からの原体験などを想起できることの仕掛けが多くありました。当社が提供した、マスターズマンション「宝塚中山 中楽坊」で農園が人気なのも、原体験によるものなのかなと思います。
日本でも、今の高齢者には自然に触れ合う機会をつくることが良いのかもしれませんが、10年後、20年後に自然と触れ合った原体験を持っている高齢者は少なくなっているでしょう。
その時に原体験を想起させるものは何なのか、は考えておく必要があると思います。そういう意味で、時代、世代によって、マンションの企画やサービスは変えていく必要があるでしょうし、それは既存物件でも、今後考えなくてはならないことかなと思います。
他に印象に残ったことは?
(吉岡)
ボランティアが盛んですね。仕事をリタイアした人が、社会貢献をしたいということで、施設でボランティアに取り組んでいます。といっても、ケアをするわけではなく、散歩に付き合うとか、一緒にいてお茶を飲んで話し相手になるとか、そういう活動なんですけど、日本ではなかなか広がりませんねえ。
(大島)
スウェーデンでも、介護職員の離職が問題になっていて、なかなか定着が難しいようです。だから、働き方改革なんかも話題になるようですけど。そういう状況は、日本も同じですけど、ボランティアがいてくれると、助かる場面も少なくないと思います。
(吉岡)
中楽坊でも、「わくわく倶楽部」の名称で様々な講座やアクティビティがありますが、北欧はもっと種類が豊富ですね。これは、見習わないといけません。
文化センターみたいなものが、施設と併設されるような形で設置されているので、そこで多世代の色々な人たちと一緒に学べる機会もあります。
(大島)
デンマークでは在宅で介護をするという方針に切り替えてから、施設が約2割減ったそうです。
そしてそこを改修して、介護施設とスポーツ施設が合わさったようなものを作っている。立派な体育館もあります。施設に入っている高齢者が行くとデイサービスのようなものも受けられますが、そこは誰でも利用ができるので、スポーツに来る若い人もいれば、リハビリに来ている人もいる。こういうのは、日本にはありませんね。
(大島)
近所の合唱をやっている高校生が、不定期のようですけど、歌いに来るというイベントもありました。高齢者の方々はそれを聞きながら、手をたたいて、涙を浮かべている人もいるんです。
(吉岡)
認知症であっても、自分で着替えて、マニキュアや口紅を塗ってお化粧していて、これがキレイなんですね。
日本の施設にいる高齢者とは、ちょっと違います。
(大島)
アルコールやタバコは自由。規制しません。日本だと、保護しすぎ・サービスしすぎる一方で、あれをしてはいけない、これはしてはいけないと規制しますよね。向こうは、個人の尊厳、意思を尊重する姿勢が徹底されています。
(三浦)
施設に入居している方の自由度が高いということと、スタッフが過度な対応を行わないということが印象深かったです。
入居者と昼食を一緒にとる機会を頂きましたが、その時に、普通にみなさんアルコールを嗜まれるんですよね。スタッフも「飲め飲め」みたいな感じで。もちろん程度がわかってのことだと思いますけど。
入居者の自由度とスタッフの接し方は日本のいわゆる「施設」では普通ではありませんが、中楽坊の接遇の姿勢とは同じですね。
中楽坊をさらに進化させるという観点では、どうでしょうか?
(吉岡)
終末期の方に、「あなたは、どのように死にたいか」を問うという話がありました。
そこまで、自己決定が徹底されているんですよね。
そして、その人が最期をどのように迎えたか、どう亡くなったのかを、しっかり記録に残していくんですね。そして、その記録を「グレッグ・ポイント会議」という場で職員全体で共有するそうです。
このように、死に行く人に対するケアができるようになるために、職員の人はかなり勉強するようです。webで勉強できるシステムがあって、分からない点はアプリで質問できたりするそうです。
中楽坊で開催されている「わくわく倶楽部」で、「死」なんかを考えてもらえるような講座があってもいいのかなと思いますね。
(河野)
確かに、昔に比べれば、高齢者も死ということに対して、そんなに会話から遠ざけるような感じがなくなってきているし、終活の一つの要素として、そんな講座があってもいいと思う。
(大島)
「五感」に働きかけるという点では、農園、ガーデニングは必須じゃないかと思うんですよね。
色やにおいや光や、触わるという感覚もある。農作業は、男性を元気にするコンテンツでしょう。だから、余計に大事という面もあると思います。
(吉岡)
大浴場も庭も、共用部の様々な部分でも、「どうすれば、もっと入居者の五感に働きかけられるか?」という視点から考えてみれば、新しいアイデアが生まれてくるかもしれませんよね。
(河野)
古い写真があるのもいい。宝塚中山 中楽坊では、宝塚エリアの昔の風景写真があるだけで、昔はこうだったと話がはずんでいる。あの写真は、ただ単に話のネタを提供しているのではなくって、「回帰」という高齢者を癒すためのアイテムになっているとも考えられる。
(大島)
そういう意味では、宝塚の中楽坊で活動している「写真クラブ」が共用部に掲示してくれている写真で、入居者の話が弾んでますから、あれも回帰に導いているんですよね。
ライブラリーにも、昔の本がありますよね。その本を見ては、あれこれと昔の話をしておられます。これも、同じことですね。
「交流」という見方もあるけれど、「回帰」でもある。
入居者がサポートステーションに来られても、「相談は3分、昔話20分」というケースがよくありますからね。
(吉岡)
私は、最初からいきなり昔話ということも・・・(笑)。
中楽坊の玄関には飾り棚があって、あれは思い出の品や自分らしさを象徴するものを置いていただくという、「回帰」を促しているわけですよね。
何か、他にもいろいろと出来そうですよね。
(河野)
豪華にするという方向ではなくって、入居者の心がほんとに安らぐ、癒されるという方向で考えていきたいですよね。例えば、大浴場なら、もっと銭湯みたいにできないか・・とか。
(大島)
銭湯は脱衣場が広くて、椅子もあるから、そこでにぎわいや交流が生まれていますよね。脱衣場を広くするというのは、どうなのかしら。
(吉岡)
そこで、フルーツ牛乳を売るとか!(笑)
(大島)
今回、ベンチはとても大事だと思いました。
ベンチがあれば、雑談が生まれる。ちょっとベンチで休んでいる人がいたら、ちょっと横に座っておしゃべりする。そういう仕掛けになると思います。
(吉岡)
私は今回、照明や音楽も大事だと感じました。
照明とか音楽によって、無機的な感じ、シーンとした冷たい感じを解消できるのではないかと。
音楽を流したら、うるさいという声が出るのかもしれませんけれど・・・。
(三浦)
ミーティングポイントの作り方(ハード、ソフトとも)、スタッフに過剰なサービスを求められる風潮(委託者と受託者という考え方)の是正、防災を含めた館内ボランティア(共助)の輪を拡げること、このあたりが見直すポイントかなと思います。
===
以上、欧州視察を終えての座談会でした。
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